ポーラの本棚

ベッドサイドに、物語を

大雪の日

 雪が降っている。

 バス停に並ぶ男1。手には傘。

 そこに、花を抱えた男2がやってくる。

 時刻表を眺め、腕時計を見て、男1の後ろに並ぶ。

 

男1 降りますねえ。

男2 ・・・。

男1 ねえ。

男2 ・・・え?

男1 雪。

男2 ああ、ええ。

男1 ・・・。

男2 ・・・。

男1 

男2 え。

男1 

男2 ああ・・・そうみたいですね。

男1 ・・・。

男2 ・・・。

男1 私、雪好きだったんですよ。

男2 ・・・はあ。

男1 生まれが雪が降らない地域だったもので、大人になるまでは絵や本でしか知らなかったんです。白くて、冷たくて、柔らかい、もの。という概念のみが私の知るすべてで。

男2 ・・・。

男1 初めて雪を見たときの事は、今でも忘れません。今まで想像の範囲でしか知りえなかったものが、今、私の目の前に確かに存在している。その事に無性の喜びを感じたものです。ああ、本当に白い。うわ、冷たい。おお、柔らかい、いやでもちょっと硬いな、なんて。

男2 ・・・。

男1 しかし、時の流れは残酷なものです。こちらに越してきてからは、何度も雪を見るようになって、今ではもう見慣れてしまいました。今では雪を見てもなんとも思いません。むしろ、雪を見ると憂鬱な気分になります。

男2 ・・・。

男1 雪のクソ野郎。ずんずんと積もりやがって。

男2 ・・・あの。

男1 白くて冷たいだけの能無しめ。さっさと降りやめ、この野郎。

男2 あの。

男1 はい。

男2 ・・・どのくらい、待たれてるんですか。

男1 定かではありませんが、かれこれ1時間ほど。

男2 え。

男1 もう来るだろう、あと少しだけ待ってみようと待ち続けた結果が、この様です。

男2 ああ・・・。

男2    独りきりで。淋しかった。

男1    そうですか・・・。

男1 大切な取引先との商談に向かうはずでしたが、もう間に合わないでしょう。

男2 ・・・。

男1 あなたは。

男2 え?

男1 どちらに。

男2 ・・・彼女に会いに。誕生日でして。

男1 それは、大切ですね。

男2 はい。・・・歩きます。

男1 そうですか。

男2 ・・・まだ待たれるんですか?

男1 歩いたところで、どうせ間に合いませんし。

男2 ・・・では。

男1 ええ。お気をつけて。

 

 男2、歩いていく。

 男1、その場に残る。

 

男1 ・・・・・・あ。

 

赤い糸

 

 舞台上に、男がひとり。

 

男 あなたは、運命の赤い糸を信じますか。僕は信じていません。いや、これは嘘です。正確に言えば、信じていないけれど、心のどこかで信じていたい、のです。この世に生を授かってから今の今まで、僕の人生に恋愛のふた文字は存在しなかったと言っても過言ではありませんでした。勿論、興味が無かったわけではありません。むしろ他人よりも積極的に求めてたと思います。しかし、僕はいつだって、最後の一歩を踏み出せずにいました。振られる事が怖かったんです。僕は臆病者でした。その度に、僕は運命の赤い糸が見えればいいのに、と思っていました。その糸を辿れば、運命の人に巡り会える。運命の人ならば、絶対に振られる事はない。たわ言である事は承知です。それでも僕は、心のどこかで願っていました。運命の赤い糸が見えますように、と。そんなある日の事、僕の左手の薬指に、赤い糸が結ばれていました。

 

 男の左手の薬指に、赤い糸が結ばれている。

 

男 最初、僕は誰かのいたずらだと思い、解こうとしました。しかし、ふと思いとどまりました。ここは僕の家、誰かが入った形跡はない。いたずらにしては動機も目的も不明。そして何より、この色、形状、そして結ばれた位置。この事から推測するに、これは、紛れもなく、運命の赤い糸でした。え、え、まじで?まじで、見えるようになっちゃった?ということは、この糸の先に、運命の人が。こうしちゃいられない!居ても立っても居られなくなった僕は、急いで部屋を飛び出しました。赤い糸を辿って、この先にいる、運命の人に会いに!

 

 男、赤い糸を辿っていく。

 暗転。

 

 街中。

 街中に赤い糸が張り巡らさらている。

 赤い糸に絡まり、身動きが出来ない男。

 周りにも、似たような人々が沢山いる。

 そこに、美女が歩いてくる。

 男たちは左手の薬指を動かし確認するが、糸が絡まってしまっていて、誰に繋がっているのか分からない。

 美女は薬指の糸を断ち切り、好みの男を糸から救い出して去っていく。

 残された男たち。

ひとりの男が、煙草を吸おうとする。

ライターを取り出し、火をつける。

 

ウールとカモミール

 真夜中。

 ベッドの上に、男。

 ティーカップ片手に女がやって来る。

 

男 何飲んでるの?

女 ハーブティーよ。カモミール

男 へえ。

女 安眠効果があるんだって。

男 安眠?

女 最近寝つきが悪くって。

男 そう。羊を数えると眠れるっていうよね。

女 あんなの子供騙しでしょ。

男 や、まあ。

女 (飲み干し)はあ、なんか、グッスリ眠れそう。

男 そう。

女 おやすみ。

男 あ、うん……。

 

 男、電気を消す。

 

男 羊が一匹、羊が二匹……。