ポーラの本棚

ベッドサイドに、物語を

赤い糸

 

 舞台上に、男がひとり。

 

男 あなたは、運命の赤い糸を信じますか。僕は信じていません。いや、これは嘘です。正確に言えば、信じていないけれど、心のどこかで信じていたい、のです。この世に生を授かってから今の今まで、僕の人生に恋愛のふた文字は存在しなかったと言っても過言ではありませんでした。勿論、興味が無かったわけではありません。むしろ他人よりも積極的に求めてたと思います。しかし、僕はいつだって、最後の一歩を踏み出せずにいました。振られる事が怖かったんです。僕は臆病者でした。その度に、僕は運命の赤い糸が見えればいいのに、と思っていました。その糸を辿れば、運命の人に巡り会える。運命の人ならば、絶対に振られる事はない。たわ言である事は承知です。それでも僕は、心のどこかで願っていました。運命の赤い糸が見えますように、と。そんなある日の事、僕の左手の薬指に、赤い糸が結ばれていました。

 

 男の左手の薬指に、赤い糸が結ばれている。

 

男 最初、僕は誰かのいたずらだと思い、解こうとしました。しかし、ふと思いとどまりました。ここは僕の家、誰かが入った形跡はない。いたずらにしては動機も目的も不明。そして何より、この色、形状、そして結ばれた位置。この事から推測するに、これは、紛れもなく、運命の赤い糸でした。え、え、まじで?まじで、見えるようになっちゃった?ということは、この糸の先に、運命の人が。こうしちゃいられない!居ても立っても居られなくなった僕は、急いで部屋を飛び出しました。赤い糸を辿って、この先にいる、運命の人に会いに!

 

 男、赤い糸を辿っていく。

 暗転。

 

 街中。

 街中に赤い糸が張り巡らさらている。

 赤い糸に絡まり、身動きが出来ない男。

 周りにも、似たような人々が沢山いる。

 そこに、美女が歩いてくる。

 男たちは左手の薬指を動かし確認するが、糸が絡まってしまっていて、誰に繋がっているのか分からない。

 美女は薬指の糸を断ち切り、好みの男を糸から救い出して去っていく。

 残された男たち。

ひとりの男が、煙草を吸おうとする。

ライターを取り出し、火をつける。